今から20年以上前に、私が表参道にあった設計事務所に勤務していたころ、表参道沿いの工事中の現場の看板に、桜台コートビレッジで建築学会賞を受賞した故京都大学教授内井昭蔵の名前があった。どんな建物になるか楽しみにしていたのであるが、完成前のある時にその名前が消えていた。そしてその後完成した建物がこれだ。
ここまでは、事実の話であるが、ここからは私の想像である。
いろんなところで何度も話していることではあるが、煉瓦は下から積んでいくのが「デザインの筋」である。建築家内井昭蔵は、当然「デザインの筋」を守って設計していたと思う。ところが、建設中にテナントが決まった時に、もっと1階部分にショーウインドウを取りたいと言われたのだと想像する。そこで通りに面した煉瓦タイルをショーウインドウに変更するように圧力があったのだろう。建築家としては「デザインの筋」を曲げる訳にいかないので、最後には設計を降りたのだと想像する。さすが建築家内井昭蔵だと当時思ったことが蘇える。結局煉瓦は下から積まれることなく、宙に浮いてしまうことになった。
ショーウインドウを最大限確保するのならば、道路を挟んだ対面に2月に完成する安藤忠雄設計の「表参道ヒルズ」のように、カーテンウォールで設計することになるだろう。
煉瓦という材料を選択した経緯は分からないが、煉瓦を選択した以上、その使い方の筋を曲げるような圧力に屈しないのがほんとの建築家だと言いたい。