住宅設計のクライアントとの打ち合せは平日の夜か土日になる。先週の土曜日の午前中築地で住宅の打ち合せを終えた後、場外市場で鮨を食べて事務所に戻ろうと東銀座のあたりをぶらついていた時に、映画館のまえで大勢の女性が列を作っているのに出くわした。坂東玉三郎のシネマ歌舞伎「鷺娘」の上映初日で、次の回がちょうど「座ってみられます」と表示されていたのと、観賞料が1000円というのに誘われてふらりと入場した。
9割以上は私より年上の女性ばかりで、上映までの明るい館内では肩身が狭い思いをした。映画は歌舞伎の舞台を撮影したものだったが、大画面で見る映像は教育テレビで見る歌舞伎とは全然別物で玉三郎はしっとりと美しかった。画面いっぱいの花吹雪のように降りしきる雪の中での舞は、ほんとに見とれてしまった。その舞の中で今流行りのイナバウアーのポーズが何度も出てきたのには驚いた。多分玉三郎のほうがずっと前からやっていたと思うが、降りしきる雪を仰ぎ見るポーズとしてまったく違和感がなかった。
以前大相撲を国技館で見たとき、歓声が館内に渦巻いている臨場感にワクワクした記憶がある。野球場でも同じ感覚を抱いた。その臨場感を建築家としては大事にしたいと思っているが、製作者として細部までもよく見てもらいたい気持ちもわかるので、シネマ歌舞伎というのも「あり」かなと思った。