風土的な建築は流行の変化に関わりがない。それは完全に目的にかなっているのでほとんど不変であり、まったく改善の余地がないのである。(「建築家なしの建築」バーナード・ルドフスキー著)
著者は本書について無名の工匠たちの哲学と知識が産業社会の人間に建築的霊感の豊かで未知の源泉を与えるという考えを伝えるために書かれたと述べている。
風土的な建築も、最初から完全であったはずはない。長い時間をかけて失敗を克服し工夫を重ねてきた結果だと思われる。本書の最初にこの地中海地方の典型的な住居の写真が掲載されている。雨が少なく、青く澄みきった空と海に挟まれた地中海地方の斜面にはり付いた白いキュービックな建築群は造形的にも魅力的である。しかし、高温多湿で雨量の多い日本では、自然発生的には決して生まれてこない形態だともいえる。ところが現代では、防水材が各種開発され、空調機も各室に設置できるので、お望みならば地中海地方と同じ形状の住居をつくる事も可能になった。また、輸入住宅として各様式の住宅が建てられている。しかし、建築をその土地に定着したものと考えるならば、また、何十年かは建ち続けるものと考えるのであれば、流行や小手先の技術を受け入れることに慎重にならざるを得ない。と同時に将来に向けた夢も追い求めるのが建築家の性分であろう。